ガボンの思い出:臓物を切り開かれて陽を浴びるアシカ顔した水亀大き

 

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ガボンのオムブエという村に二週間ほどいたことがある。そこの漁業組合に日本が冷凍倉庫を贈与していた。その機械、冷凍倉庫や真空ポンプや、あるいは同時に提供した船外機の修理を実施するためである。今では高速道路が機能しているらしいが、その頃は船で一日をかけて密林の中を縦横に走る迷路のようなラギューンをさかのぼった。
オムブエにはけっこうしゃれたホテルが一軒あり、我々はそこに部屋を取った。ホテルの主人の父は中国人、母はオムブエの人だと、日曜日だったか、ビールを飲んでいたら隣に来てそう教えてくれた。

『父は中国からベトナム、インドシナとフランス語圏を伝いながらマルセーユにまで来た。一人じゃない。同郷の中国人の友だちと一緒でね。若い二人はマルセールまで来たもののこれといった仕事がない。それで二人はセネガルにわたり、ガボンまで南下した。それから魚の取引をしようということになり、オムブエに落ち着いた。そのころは網を入れれば魚は幾らでもとれた。魚が取れなくなれば木材を扱った。その木で作ったのがこのホテルだよ、貴重な材木ばかり使っている。これは紫檀、ほら、これは黒檀、他にも、、、』と亭主は材木には詳しかった。『いや、オムブエには住んでいない。いつもはポールジャンティにいてね、月に一度このホテルに来て金の計算をするんだ。それだけ。最近は観光客も少なくてね。観光?ほら少し奥へ行くと大きなクロコディルがたくさんいる湖があるし、後ろの砂丘を越えればすぐに大西洋だよ。クジラやイルカが見れる。砂浜にはよく象たちが来て水浴びをしている。WWFの支部もあるんだよ。運転手兼ガイド付きのレンタルカーもあるから行ってみたら?このホテルに泊まる客はみんなそうする。もう一人の中国人?息子が有名人でね、ほらジョン・ピンって知ってる?そう、首相をやったこともある実力者、彼が息子だよ。ジョンはパリで法律をやって、帰国したらすぐにボンゴ大統領に目をかけられて政府に入った。大統領の娘さんとも結婚してたんだよ。このホテルのすぐ隣に豪邸があるだろう?あれがピンさんの家だよ。いつもはいないけど休暇に帰ってくるとバーベキューに村人全員を招待してくれるよ、、、』しっかりした鉄製の門扉に守られた別荘はいったい誰のものかと疑っていたが、そうなのか、ジョン・ピンの家なのか。雑草が丈高く生えているので廃屋かとも思っていたが、、、
そんな眠り込んだままの村にはオオトカゲがのそりのそりと歩いて村人を震撼させたり、夜になれば少し下がった気温を理由に巨人のように背の高い青年たちがバスケットに興じた。気温が下がったといっても暑い、日本人にでも暑い。そして湿気。夜になるとかならず激しいスコールが来てトタン張りのホテルの屋根を叩き、すさまじい音を立てた。
そうした村で、日曜日に散歩をしていると、何か宴会でも開くのか、家の前で大きな亀を解体しているところへでくわす。男が用心深い顔をして私を見たのは密漁だったからか。亀は背中を下に解体され真っ赤な臓物がむき出しになっている。亀の頭がまったく爬虫類の頭ではなく、まるで犬かオットセイの顔をしているのが不思議だった。ここで取れたのだから淡水の亀のはずだ。あの亀の頭はなぜあんな哺乳類のような顔をしていたのだろう?十数年たった今でも不思議に思っている。

写真:オムブエ(Omboué, Gabon)