カイの指輪

あ、これ?マリで買った。マリのね、カイというところ。アフリカで一番暑い土地だとの話だったけれど。うーんと、45℃くらい。盆地を囲むまわりの山脈が鉄鉱石でね、それで暑いんだと土地の人は教えてくれたけど、どうなんだろう?調べたことはない。そこへ二度行った。仕事。でないと行かないし、行けないよ、あんなところ。金鉱山があるところでね、町には宝飾師の一角があって、そこで買った。純金という触れ込みだったけれど、いつものように騙されたのかもしれない。アフリカ人には騙されてばかりだよ。え?いや、そういうものらしいよ。外国人は金持ちだからだましても大丈夫みたいな。一番多いのがね、運ちゃんが、マリじゃ運転手付きのレンタルカーで移動したんだけれど、その運ちゃんがね「あ、携帯を置いてきた!」と帰る途中に言うんだ。え、置いてきた?どこに?「あのニジェール河手前の舟渡し場だと思う。」遠いじゃない、困ったね~、携帯なくちゃ仕事できないし、まいったな~、、しょうがない、帰ろう。とまた小一時間ほど走りもどって、茶を飲んだ小屋や、船頭に聞いてみるけど、そんなものはみないよ、としか答えが返ってこない。もっとも現地語でしゃべっているから日本人の我々にはわかるわけがない。さんざん探して、帰ろう、時間もないし、とまた来た路を引き返すけど、運ちゃんが、コマッタ、コマッタと言うものだから、ついつい、おい分かったよ、いくらするんだ、えー、そんなに高いの?そりゃないだろう、そうお?そんなに高かった?いいよ、いいよ、出してやるよ、と日本人が金を出しあって新しいのを買えるようにしてやったんだけど、あくる日、うれしそうに見せる携帯を見ると、えらくいいものを買ってるんだな、これが、あれは絶対に俺たちをだましたんだよ、チュニジアでも同じことを言った運転手がいたから。まあ、運転手というのはどこに行っても雲助だね、フランスのタクシーの運転手にも悪いのがいるし、、、

ま、そういうわけで純金とは言うんだけど、本当かどうかは分からない。ま、騙されたんだと思うよ、純金にしては安かったから。でもこの素朴な感じがすきでね、愛用してる。いろいろ思い出すこともあるし。今じゃマリは内戦みたいなもんで、もう行けないからね。いや、目の前で作ってくれたんだ。炭火をフイゴで燃え立たせながら、彫金師の若い男が作ってくれた。いや違う。もう大体には作ってあった。そうそう、店のオヤジが一時間して来いよ、とかなんとか言ったのを覚えているから、指の大きさだけ合わせれば良かったんだな、きっと。「指の大きさは?」62。「フム」。真っ赤になった指輪を叩いて、磨いて、水につけてジュッ。手に持った時はまだ暖かったよ。長い間つかってるものだから、変形してしまった。最初は円形だったけれど、ほら、こんなに、楕円形でしょう?フランスや日本で金の指輪というと磨き込まれて、いかにも工業製品でございますというものばかりだけど、だってどれも同じじゃない、個性もなにもない。これは素朴でね、あの若い彫金師の素朴な彫りがそのまま出ている。これが好きなんだ。見てればこうやって思い出すことはつきないし、いい指輪だよ、ほんとうに。